フィギュア展示の背景について色々と考えてみた

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最近、イベント等でガレージキットやフィギュアを展示する際、どのような背景が栄えるのか?(あるいは撮影しやすいのか?)というディーラーさんの疑問の声を耳にする機会が多くなりました。この記事では、様々な背景でフィギュアを撮影してみて、具体的にどのような違いが生じるのかについて簡単な実験を行ってみたいと思います。

昨年より、ワンフェス・トレフェス・メガホビと、様々なフィギュア関連のイベントを撮影する機会が増えました。データを見返すうちに、自分が苦手とするブース背景の傾向も明らかになってきており、それが何故なのか検証してみたくなりました。

撮影者としては、企業・個人、照明やケースパネルの有無に関わらず、「何となく黒バックの撮影が苦手…」という意識をずっと持っていたのですが、何故苦手と感じるのか、その理由について深く検証した事は今までありませんでした。

ここでは、カメラの撮影設定を予め固定した上で、背景の違いが被写体や周囲の明るさにどのような影響を与えているのか、という点に注目して実験を進めて行きたいと思います。

イベント撮影を想定し、カメラは手持ち(三脚は不使用)で行い、カメラ・ストロボ・ディフューザー等の装備は先日のワンフェス装備と同じものを使用しました。他の装備・撮影設定では違った上がりになる可能性もありますが、その点はご了承頂きたく思います。

 

使用機材

  • カメラ:PENTAX K-3+D-BG5
  • レンズ:TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO
  • ストロボ:AF540FGZ
  • ディフューザー:LQ-103ウルトラソフト
  • ストロボブラケット:CB フォールディングT

 

カメラ・ストロボの設定

縦グリップ付のカメラにストロボブラケットを付け、縦構図で構えた際にレンズ光軸上の高い位置にディフューザーの発光部が来るようにセッティングし、撮影を行いました。被写体とカメラの距離は1m程度。全て縦構図で撮影し、撮影画像はトリミングをしていません。

カメラの撮影設定・ストロボの発光量は全てマニュアルで固定し、背景のみを変更しながら撮影を行いました。

ストロボの発光量はマニュアルで1/32の弱発光とし、露出を補うためISO感度を1600まで上げて撮影しています。

環境光は蛍光灯のため、色温度はイベント会場の照明とは異なりますが、明るさについては会場と同じくらいなのかなと思います。(相当に暗いという点で共通です)

ホワイトバランスはカメラ任せのAWB設定で、後から調整しやすいようグレーカードを写し込んでいますが、背景ごとの色かぶりのクセを見るためあえて調整していません。(イベント本番ではグレーカードなど使用しませんし、カメラのAWBと後の現像処理で何とかするしかない部分です。)

以下、13種類の背景紙(一部は布)について、ストロボを使用した場合と使用しなかった場合のテスト結果をそれぞれ掲載致します。

 

白バック

●ストロボ使用

■1/125秒/f8/ISO1600/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ1/32発光

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オーソドックスな白バックでストロボを使用した例です。色合い的に面白みはありませんが、その分無難で安定した結果が得られます。全体に光が良くまわっている印象です。

●ストロボ不使用

■1/125秒/f8/ISO6400/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ非発光

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ストロボを使用せず、環境光(室内照明)のみで撮影して見ました。少し影が出ますが、周囲の白が光を反射・拡散しているおかげか、比較的明るく撮れていると思います。ストロボ非発光の場合、絞りとシャッタースピードを固定して適正な露出を得るためにはISO6400まで増感する必要がありました。以下、この感度をストロボOFF時の基準として使用します。

 

黒バック

●ストロボ使用

■1/125秒/f8/ISO1600/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ1/32発光

event_background_test_04

白バックと同様の設定でストロボ使用で撮影した例です。黒バックの場合、フィギュアが浮き立って見える一方で、全体的に光のまわりが悪く、アンダー気味に写っている印象があります。(締まって見える、とも言います。)

この場合、個人的にはストロボの発光量かISO感度を上げるなどして、もう少し明るく撮りたくなりますね。白バックと同一設定で撮影した場合全体的に暗くなっており、これは「黒バックはブース全体が暗くなる」という実証にもなっていると思います。WFにおいては、ISO2500程度まで増感して対応したケースが事が多かったように思います。

●ストロボ不使用

■1/125秒/f8/ISO6400/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ非発光

event_background_test_05

ストロボ非発光の場合、さらにアンダーになってしまいました。この場合、露出を1段分程度上げないと厳しそうです。ストロボを使わないと厳しい世界でしょうか…。正直、背景紙の色でここまで明るさが変わる点に驚いています。白バックに比べて被写体に光がまわっていないのは、背景や床面の黒が光を吸収してしまい、光の反射や拡散効果が期待できないからだと考えられます。周囲全体を黒レフで締めている感じでしょうか…。

以下は現像ソフト上で白バックと黒バックを並べて比較してみた画像です。明るさだけでなく、肌の影の部分の色にも差が見られますね…。

■ストロボ使用

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■ストロボ不使用

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同一の照明下でここまで大きな違いが出たのが衝撃的でした。

 

フレンチマーブル(サンセット)使用

●ストロボ使用

■1/125秒/f8/ISO1600/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ1/32発光

event_background_test_06

バックに淡い大理石模様の背景紙を敷いて見ました。白バックよりもわずかに暗くなりますが、クセがなく撮影しやすい背景かなと思います。模様も主張し過ぎず、無難に使えそうな紙ですね。

●ストロボ不使用

■1/125秒/f8/ISO6400/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ非発光

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若干アンダー気味ですが、全体的にクセがなく、撮りやすい背景紙です。

 

ローマストーン(オールド)使用

●ストロボ使用

■1/125秒/f8/ISO1600/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ1/32発光

event_background_test_08

フレンチマーブルよりも大理石調の模様を強く出した紙で、時々フィギュアレビュー等で使用されているのを見かけます。少し暗い感じですが、高級な雰囲気を出したい時などに良いかも知れません。

●ストロボ不使用

■1/125秒/f8/ISO6400/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ非発光

event_background_test_09

少しアンダー気味ですが、撮影設定と現像時の調整次第でカバーできる範囲かなと思います。紙の明度と彩度が低いため、フレンチマーブルよりも硬質な雰囲気になりますね。AWBでは肌の色に赤味が強く出ました。

 

ローマストーン(アンバー)使用

●ストロボ使用

■1/125秒/f8/ISO1600/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ1/32発光

event_background_test_10

ローマストーンの色違いバージョンです。全体的に黄色味が強い仕上がりになりました。色の主張が強いためか、ぱっと見はローマストーン・オールドよりも明るく見えます。

●ストロボ不使用

■1/125秒/f8/ISO6400/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ非発光

event_background_test_11

傾向はオールドと似ていますが、AWBの解釈が少し異なります。肌も黄色味が強く出ている感じでしょうか。背景のみ照明して、もう少しだけ明るく撮りたくなる紙です…。

 

彩雲(桃)使用

ストロボ使用

■1/125秒/f8/ISO1600/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ1/32発光

event_background_test_12

雲模様柄の紙を使用してみました。少し濃い色の紙ですが、桃色のためか明るい雰囲気になりました。照明によっては色被り等が強く出るかも知れません。

ストロボ不使用

■1/125秒/f8/ISO6400/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ非発光

event_background_test_13

ストロボ不使用でもまずまずの無難な上がりといった感じです。華やかな雰囲気を出したい時に良いかもしれません。

 

彩雲(あじさい)使用

ストロボ使用

■1/125秒/f8/ISO1600/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ1/32発光

event_background_test_14

彩雲の色違いバージョンです。過去にレビューでも使用しましたが、色被りが強く出るクセがあり、やや使いこなしが難しい紙です。カメラのAWBでは赤味が強く出ていました。

●ストロボ不使用

■1/125秒/f8/ISO6400/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ非発光

event_background_test_15

明るさはまずまずですが、ストロボ非発光の場合、カメラのAWBでは黄色味が強く出ました。バックの色が綺麗に出るかは現場の照明環境にかなり左右されそうですね。 難易度は少し高めかも知れません…。

 

サテン布(白)使用

ストロボ使用

■1/125秒/f8/ISO1600/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ1/32発光

event_background_test_16

同一の露出設定で撮影して、最も明るく撮れたのが白いサテン布でした。(僅かに露出オーバーですw)色は様々ですが、サテン布はイベント会場で使用されているのを良く見かけます。布がキラキラと光を反射するため、周囲がレフ板のような役割を果たして明るく撮れるのかも知れません。布はブースの広い面積を覆うのにも適していると思いますし、使用されているディーラーさんが多いのも頷けます。ただ、ストロボを使用する場合、発光位置によっては反射が強く出てP-TTL調光を狂わせる可能性もありますので、撮影する際にはその点注意は必要かなと思います。

●ストロボ不使用

■1/125秒/f8/ISO6400/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ非発光

event_background_test_17

ストロボ不使用でもかなり明るく撮れました。

黒バックと並べて比較すると、明るさにかなり差が出ているのが分かります。

■ストロボ使用

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■ストロボ不使用

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サテン布(サーモンピンク?)使用

●ストロボ使用

■1/125秒/f8/ISO1600/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ1/32発光

event_background_test_18

少し赤みを帯びたサテン布で、白ほどではないものの、こちらも結構明るく撮れます。サテン布の反射効果は侮れませんね…。

●ストロボ不使用

■1/125秒/f8/ISO6400/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ非発光

event_background_test_19

少し色付きが見られますが、現像で吸収できる範囲かなと思います。サテンの反射効果は侮れません…。

 

レザック75(赤)使用

●ストロボ使用

■1/125秒/f8/ISO1600/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ1/32発光

event_background_test_20

レビュー等でも時折使用するレザック75の赤を使用してみました。色の主張は強いのですが、イベントを想定するとやや暗い背景かもしれません。もう少し露出を上げて撮りたくなります。

●ストロボ不使用

■1/125秒/f8/ISO6400/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ非発光

event_background_test_21

ストロボ不使用の場合、かなり暗くなってしまいました。 印象は黒バックにかなり近い感じですね。赤いバックを使用する場合は、サテン布等を使う方が明るく撮れるかも知れません。(見た目は相当派手になると思いますが…^^;)

 

紙名忘れ(山吹色?)使用

●ストロボ使用

■1/125秒/f8/ISO1600/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ1/32発光

event_background_test_22

肝心の紙の名前を忘れてしまいましたが、山吹色のかなり鮮やかな紙で、ストロボ発光の場合、明るさ的にも色合い的にもインパクトのある仕上がりになりました。黄色系は飛びやすいと言われますが、このくらいの濃さなら大丈夫でしょうか…?

●ストロボ不使用

■1/125秒/f8/ISO6400/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ非発光

event_background_test_23

ストロボ不使用の場合、被写体よりも背景のほうが明るく見えてしまう印象もあります。

 

 

LPL アートグラデーションパレット(グレー)使用

●ストロボ使用

■1/125秒/f8/ISO1600/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ1/32発光

event_background_test_24

時々レビューで使用する撮影用のグラデーションペーパー(グレー)です。色合い的に面白味はありませんが、上がりは比較的安定しています。撮影用品のため、展示用には向かないかも知れませんが、一応参考用にテストして見ました。

●ストロボ不使用

■1/125秒/f8/ISO6400/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ非発光

event_background_test_25

白バックを少し暗くしたような上がりで、これは予想通りとも言えます。

 

LPL アートグラデーションパレット(ブルー)使用

●ストロボ使用

■1/125秒/f8/ISO1600/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ1/32発光

event_background_test_26

こちらもレビューで使用している撮影用のグラデーションペーパーです。鮮やかな色を綺麗に出したい時に重宝しています。ダブルグラデのため、足の肌の部分に少し青色の照り返しが見られます。

●ストロボ不使用

■1/125秒/f8/ISO6400/90mm(TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO)/ストロボ非発光

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ストロボ不使用の場合、色が少し黄色に振れました。背景をきちんと照明できれば綺麗な色が出るのですが、イベント会場の天井照明では色がうまく出ない可能性もありますね…。なかなか難しいです…。

 

まとめ

さて、様々な背景を試して見ましたが、見た目や色の印象だけでなく、背景によって明るさが大きく異なる点に驚かされました。光の反射・拡散効果にも結構大きな違いがあるのですね。

管理人は、最近のイベント撮影は全てマニュアルで撮影しており、ブースごとに明るさを読みながら手動でISO感度とストロボ発光量を調整して撮影を行っています。全て手動調整で撮っていますので、ブースごとにかなり明るさが異なるという事は以前から認識しておりましたが、背景や周囲の色・素材によってここまで大きな変化があるというのは正直驚きでした。

撮影機材や撮り方は撮影者により異なりますので一概には言えませんが、撮影者は概ね黒バックを苦手としている傾向が強く、管理人もその一人だったりします。^^;;

展示の見栄えという点では、黒バックは全体が締まって見えるため格好良いのですが、撮影を想定した場合には難易度が格段に上がってしまうような気がします。これには、以下のようなパターンが考えられると思います。

■マニュアルで撮る場合

  • ブースが暗い→ストロボ強める→光の当たりがキツく、テカリ感が強まる(;´Д`A
  • ブースが暗い→ISO感度上げる→記録画のノイズ増加(;´Д`A

■オートで撮る場合

  • 黒バックを測光→カメラが暗いと判断し自動的に露出を上げる→露出オーバー(;´Д`A

黒バックの撮影難易度が高い理由としては、やはり「暗い」という点と、光がうまく拡散されず影が濃くなる点、オートで撮影する場合は、カメラの測光、ストロボの自動調光を狂わせる点などが挙げられると思います。企業の展示などでケース内に展示されている場合には、これに映り込みの問題が加わります。

自身の過去の撮影を見返してみても、黒バックの多くは、ストロボ光の当たりのキツさやコントラストの強さ(影の濃さ)が目立ち、ふんわりとした柔らかい光で撮影できていないものが多いです…。

これと対照的なのが白バックで、背景の演出としてはやや物足りない感じがするものの、写真は明るく撮れることが多く、少ない光量でも光が良くまわっている印象があります。白サテン布は、白バックに光の拡散効果を加えたものと考えて良さそうです。

■ストロボ使用時の白バックと白サテン布の比較

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同じ露出設定で撮影していますが、白サテン布の方が若干明るく撮れています。(ややオーバーに振れています…)

これは撮影者としての個人的な考えですが、イベント等での背景は、できるだけ明るいものを選んだ方が撮影栄えするのかなと感じています。←勝手な主張です^^;

「背景は作品の方向性や雰囲気に合わせて選ぶべき」という考え方もあると思いますし、サークルや企業にシンボルカラーのようなものがある場合、その色でブースを演出しているケースも見られます。また、個人的には「アダルトな作品にはやっぱ黒が合うんだよな~」と思う部分もあり、撮影難易度の高さと作品イメージとの間でいつも葛藤が起こります。^^;

ワンフェスに参加されているディーラーさんの間でも、背景やブースセッティングに関する興味・関心が高まり、今後情報の共有等がなされていくのかも知れませんが、撮影者として普段どのように感じているか、またその理由について実例を挙げながら情報発信する事にも意味がありそうな気がしましたので、テストという形で長々と記事にしてみました。

「綺麗に撮って欲しい」というディーラーさんの願いと、「綺麗に撮りたい」という撮影者の思いが一致するポイントがどのあたりにあるのか?この記事が何かのお役に立てば幸いです。^^

フィギュア展示の背景についての考察をお送りしました。



前後の記事


“フィギュア展示の背景について色々と考えてみた” への2件のフィードバック

  1. あくあく より:

    私はイベント撮影ばっかりですので、参考になりました。
    オート設定ではサテン地背景だとストロボ光の反射に対して目一杯
    暗くしてくれる事もあるので、あまりありがたくないですねぇ。
    特に青のサテン地は肌色に青色が被って悪影響が大きい印象です。

    私が撮っていて一番嬉しい背景は白系のファーのような素材です。
    乱反射で光が回るけど過剰に反射せず、毛の模様のおかげで
    フィギュアとの境界線もわかりやすいですし。

    黒背景に黒っぽいフィギュアは背景に溶け込んでしまうのも難点…。

  2. hobbyholic より:

    背景の反射によってストロボのP-TTL調光が狂うのは
    オートで撮る際の宿命かなと思います。

    特にストロボを直射角で使用する場合など、
    跳ね返った反射光をモロに測光する事になるので、
    相当なアンダーになってしまうでしょうね…。

    機材や撮り方によって、結果は大きく異なってきそうです。

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